雪比良隊員の秘密日記
□可愛い誘い
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鉄格子らしき物が嵌まる硝子のない窓から覗く世界は、日々代わり映えのない三日月に支配される夜空。
静かな静寂が支配する、この世界『虚圏』には夜だけが存在し、他はない。
虚夜宮に来てから、どのくらいの時がすぎたのか……日の巡りがないこの場所では、それを知ることすら叶わなかった。
「此方の生活には慣れたか?」
何の前触れもなく、突如として声をかけられた一護は、それでも別段驚くでもなく応える。
「……ああ、そうだな」
「…………」
肯定する言葉を告げるのだが、その視線は窓の外を見詰めたままだった。
声を掛けた人物、ウルキオラは、一護のその様子に、彼が今どんな表情をしているか手に取るように解るようだった。
彼方側の、仲間だった者達のことを思い出し、きっと済まなそうな表情をしていることだろう。
そんな風に、ただ独りで佇む一護の姿にたまらなくなったウルキオラは、一歩ずつ背後から近付くと優しく一護を抱き締めた。
「…後悔してるのか?」
そう聞けばどう応えるか、答えは解りきっているはずなのに、それでも聞かずにはいられないウルキオラは、自分自身に対し“狡い男”だと思った。