雪比良隊員の妄想記

□そして太陽は墜ちた
1ページ/5ページ

「何だ…護衛は二人か」


 護衛官に護られるようにして、王宮からの脱出を試みていた皇子(みこ)の一護は、何処からともなく響いてきた冷たい声に、思わず足を止めてしまった。

「存外、尸魂界も無能だな…最も危険が高いのは、移動の時だということを知らんらしい」

 必死に駆けてきた、緊急用の脱出路を振り返ると、ギシッという軋み音と共に空間が裂け、そこから白い衣装を纏った人物が現れた。

「………っ!」

 いつか見たことのある人物……、確かグリムジョーがウルキオラといっていた筈の黒髪、深い海色の瞳をした者の登場に、一護は警戒を強める。

 護衛官二人も、いきなり現れた不審な人物に一瞬驚きはしたものの、そこはやはりプロ、素早く一護を背後に庇い、相手を牽制する為に斬魄刀の束に手をかけると、すぐに抜刀出来るように身構える。

 白い衣装の人物、ウルキオラは、コートのポケットに両手を入れたままの体勢で、全くもって此方を警戒するでもなく、一歩ずつ近づいてくる。

「護衛が二人というのは拍子抜けだが、煩わしい拘流の動きが固定されていたのは都合がよかった」



 あくまでも緊急用の此方の通路は、何かあった場合王族を無事に現世へと逃がすためだけに使用される脱出路の為、使う機会は滅多になく、もちろん常人の知るところではない。尸魂界の中でも王族特務に従事する者や護廷十三隊の隊長達くらいしかその存在を知る者はいない。
 常であれば、この脱出路専用の穿界門も勿論隠されており、ここ自体も発見ができない様になっている。
 そして、それ以外にも万が一の侵入者などを排除する為に、頻繁に蠢き形を変え一つの形に留まらないよう何時でも動いている『拘流』という空間にもなっているのだ。

 だが今回、その滅多に使わないこの通路を、皇子の一護を現世へと逃がすために使うこととなり、『拘流』の動き自体を固定し、脱出路を確保していたことが徒となった。

 常人には知ることも出来ず、よもや発見などされるわけがない場所なのだが、まるでこうなることも、何もかもわかっていた風に語り、事実この場に現れたウルキオラの背後には、やはり藍染の影がちらつく。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ