雪比良隊員の観察記
□RAIN
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「…雨…か…」
無機質な世界に突然暗雲が立ち込め、そこから滴がポツリポツリと落ち始める。
縦横無尽に埋めつくされた天地を無視した建物が並び立つこの世界の住人は、今はただ自分独りとなった。
「…また泣いてやがるな」
ずぶ濡れになるのも構わず天を見上げ誰にともなく呟くと、この世界を構成している主を思う。
また己の力の及ばぬ事に出会い傷つき悔やんでいるのだろう…。
周りに気を使い、それを表に出さない主は心で泣く。
本当は誰よりも繊細で傷つきやすい魂の持ち主の癖に、それを生来の気の強さ明るさでもって隠す。
そんな時は決まってこの世界に冷たい雨が降る。
「馬ー鹿、……無理してんなよ」
憎まれ口を叩くのだが、自身を打つ雨の冷たさに主を気遣う言葉が自然と出た。
これから先、もっと辛く厳しい戦いが待っている。身を打つ雨は更に冷たさと激しさを増すだろう……
笑顔の裏に涙を隠す
「…俺がいるから…」
辛くなったらオマエの代わりに戦うから――
だから……
―――――
ただ独りのこの世界の住人は、主に思いを馳せ悠久の時を過ごす。
主にその名を呼ばれ、必要とされるまで……
end