BLACK CATA

□我忘れぬ
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 いくつもの岩肌が剥き出しになっている土地。深い闇の中で音が聞こえた。その蟲の羽音は不気味に響いている。
 空を切るかの如く、颯爽と飛んでいくのは巨大な蟲だ。その蟲の上には2つの人影が覗いていた。

 一人は身体が大きな男。太っている体格と一言で表すのは簡単だが、その一言だけでは表せない、独特の雰囲気を漂わせている。古代の人間がしていたような髪形が特徴的だ。
 その男の前にいるのは、先の男と比べるとわりと小柄な人物だった。顔は布のような物で覆われており、布の隙間からは赤い瞳が覗いていた。

「《……マロ》」

 その声色からして性別は男と分かる。小柄の青年が後ろの男の名前を呼ぶ。彼の名前はシキ。
 2人を背に乗せ、飛んでいる蟲を創り出したのも彼だ。シキの銀色の長い、ストレートな髪が風に揺れる。

「……何だあ?」
「《一旦地上に降りるぞ。休息に良さそうな場所を見つけたのでな》」

 静かに告げると、シキは蟲の高度を下げていく。彼の視線の先には緑の森が鬱蒼としていた。
 木々が育つということは、近場に水が流れている証だ。何処か休憩できる場所は無いものか。

「……シキ、彼処はどうだ?」

 マロの指さす方へと視線を移す。其処には巨大な木があった。直ぐ横に川辺も見える。

「《よし……》」

 シキは巨大な木の根元へと降り立つ。樹齢数百年もありそうな巨木。その場だけ、何処か雰囲気が違う気がした。

「《何か、食料になるものは無いだろうか》」

 辺りを見渡すと、赤い実が幾つか生った木を見つけた。
 ふむと手を顎に添えたシキはその木に近付く。そして実をむしり取ると、赤い実を一口かじった。口の中に甘みが広がる。

「シキ、何か見つけたかー?」

 足音を響かせてマロがシキに近付く。

「おおっ! 美味そうじゃねェか!」

 木に生る実を見た途端、嬉しそうに声を上げる彼にシキは一つの実を投げる。
 シャク……と実をかじる音が隣でした。
 シキはマロの横に腰を落とす。

「《……静かなものだな》」

 遠くを眺めてシキが呟く。

「お前ェ、布を外したらどうだ?」

 マロは呆れたように言う。シキは軽く頷くと首から上に巻き付けていた布地を外す。
 一瞬その場の空気が変わるが、マロがそれを気にした様子はない。ストレートな銀色の髪が肩から腰に掛けてスルリと落ちる。赤い瞳が再び夜空を捉えた。
 現れたシキの素顔は、それなりに整っていた。小柄な体格な為、一見少年に見えなくもない。
 何処か、高貴な雰囲気を持つシキは目を細める。
 シャク……と、また一口、実をかじる。

「……美味いな」

 淡々とその味の感想を呟くシキに、マロは肩を落として返した。

「庶民の味なんか分かるのかよ、ぼっちゃんが……」
「……マロ…。それは、私を侮辱しているのか」

 眉を寄せるシキに、マロは軽く笑みを溢す。
 その笑みに反論をしようと口を開けかけたとき、夜風がシキの綺麗な顔に当たった。
 銀色の艶やかな髪が、風に吹かれ上に上がったかと思うと直ぐに肩に落ちる。

「…………」

 喉から出かかっていた言葉を飲み込んだシキは、無言のまま空を見上げた。
 瞬く星空、以前も彼と星空を眺めていた。シキは静かに目を閉じた。


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