BLACK CATA
□我忘れぬ
1ページ/6ページ
いくつもの岩肌が剥き出しになっている土地。深い闇の中で音が聞こえた。その蟲の羽音は不気味に響いている。
空を切るかの如く、颯爽と飛んでいくのは巨大な蟲だ。その蟲の上には2つの人影が覗いていた。
一人は身体が大きな男。太っている体格と一言で表すのは簡単だが、その一言だけでは表せない、独特の雰囲気を漂わせている。古代の人間がしていたような髪形が特徴的だ。
その男の前にいるのは、先の男と比べるとわりと小柄な人物だった。顔は布のような物で覆われており、布の隙間からは赤い瞳が覗いていた。
「《……マロ》」
その声色からして性別は男と分かる。小柄の青年が後ろの男の名前を呼ぶ。彼の名前はシキ。
2人を背に乗せ、飛んでいる蟲を創り出したのも彼だ。シキの銀色の長い、ストレートな髪が風に揺れる。
「……何だあ?」
「《一旦地上に降りるぞ。休息に良さそうな場所を見つけたのでな》」
静かに告げると、シキは蟲の高度を下げていく。彼の視線の先には緑の森が鬱蒼としていた。
木々が育つということは、近場に水が流れている証だ。何処か休憩できる場所は無いものか。
「……シキ、彼処はどうだ?」
マロの指さす方へと視線を移す。其処には巨大な木があった。直ぐ横に川辺も見える。
「《よし……》」
シキは巨大な木の根元へと降り立つ。樹齢数百年もありそうな巨木。その場だけ、何処か雰囲気が違う気がした。
「《何か、食料になるものは無いだろうか》」
辺りを見渡すと、赤い実が幾つか生った木を見つけた。
ふむと手を顎に添えたシキはその木に近付く。そして実をむしり取ると、赤い実を一口かじった。口の中に甘みが広がる。
「シキ、何か見つけたかー?」
足音を響かせてマロがシキに近付く。
「おおっ! 美味そうじゃねェか!」
木に生る実を見た途端、嬉しそうに声を上げる彼にシキは一つの実を投げる。
シャク……と実をかじる音が隣でした。
シキはマロの横に腰を落とす。
「《……静かなものだな》」
遠くを眺めてシキが呟く。
「お前ェ、布を外したらどうだ?」
マロは呆れたように言う。シキは軽く頷くと首から上に巻き付けていた布地を外す。
一瞬その場の空気が変わるが、マロがそれを気にした様子はない。ストレートな銀色の髪が肩から腰に掛けてスルリと落ちる。赤い瞳が再び夜空を捉えた。
現れたシキの素顔は、それなりに整っていた。小柄な体格な為、一見少年に見えなくもない。
何処か、高貴な雰囲気を持つシキは目を細める。
シャク……と、また一口、実をかじる。
「……美味いな」
淡々とその味の感想を呟くシキに、マロは肩を落として返した。
「庶民の味なんか分かるのかよ、ぼっちゃんが……」
「……マロ…。それは、私を侮辱しているのか」
眉を寄せるシキに、マロは軽く笑みを溢す。
その笑みに反論をしようと口を開けかけたとき、夜風がシキの綺麗な顔に当たった。
銀色の艶やかな髪が、風に吹かれ上に上がったかと思うと直ぐに肩に落ちる。
「…………」
喉から出かかっていた言葉を飲み込んだシキは、無言のまま空を見上げた。
瞬く星空、以前も彼と星空を眺めていた。シキは静かに目を閉じた。
.